近年、AI技術の進化は目覚ましく、新たなプレイヤーが次々と登場しています。そんな中、日本発のAIスタートアップ 「SAKANA AI」 が注目を集めています。
2023年7月に設立されたSAKANA AIは、Google BrainやGoogle AIの元研究者たちが創業した企業です。特に、自然界の適応システムをAIに応用する「生物模倣(バイオミミクリー)」のアプローチを取り入れており、独自のAI技術を開発しています。
また、設立からわずか1年で企業価値約11億ドル(約1600億円)を達成し、日本最速のユニコーン企業になると期待されています。
本記事では、SAKANA AIの概要や技術の特徴、急成長の背景について詳しく解説します。
SAKANA AIとは?

SAKANA AIは、2023年7月に設立された日本のAIスタートアップ企業です。本社は東京都港区西新橋にあり、革新的なAI技術の開発に取り組んでいます。
企業名の「SAKANA(魚)」は、自然界の適応システムや集合知をAIに応用するという開発理念に由来しています。この「生物模倣(バイオミミクリー)」のアプローチを活用し、より柔軟で効率的なAIモデルの開発を目指しています。
また、SAKANA AIは従来の大規模AIモデルとは異なり、複数の小規模AIを組み合わせる「マルチエージェントAI技術」を採用。この手法により、個々のAIが協力し合いながら、高性能で適応性の高いシステムを構築できるとされています。
SAKANA AIは何をしている会社なのか?
SAKANA AIは、AIの新しい開発手法を研究・実装するスタートアップ企業です。従来のAIモデルとは異なるアプローチを取り入れ、より柔軟で効率的なAI技術を開発しています。
研究・開発の方向性
SAKANA AIの主な研究テーマは以下の通りです。
- 生物模倣(バイオミミクリー)AI:自然界の生物が持つ適応能力や協調の仕組みをAIに応用し、より効率的な学習と問題解決を目指す。
- マルチエージェントAI:複数の小規模なAIモデルを連携させ、一つの大規模モデルよりも適応力のあるAIシステムを構築。
- 進化的モデルマージ:異なるAIモデルを組み合わせ、より高度なAIを自動生成する技術。
- AIサイエンティスト:AI自身が新しいアルゴリズムを発見し、自己進化するシステムの開発。
SAKANA AIの目的
SAKANA AIは、単なるAIモデルの開発だけでなく、AIの進化そのものを加速させることを目指しています。具体的には、
- 計算コストの削減:従来の大規模AIモデルよりも効率的な処理を実現。
- 適応性の向上:環境の変化に対応しやすいAIを開発。
- 研究の自動化:AI自身が研究を行い、新しい知識を生み出す。
- バイオミミクリー(生物模倣):自然界の生物の構造や行動をヒントに技術を開発する手法。
- マルチエージェントAI:複数のAIが連携してタスクを処理する方式。
- 進化的モデルマージ:異なるAIモデルを統合し、新しいAIを生み出す技術。
創業者と設立の経緯
SAKANA AIは、デビッド・ハ、ライオン・ジョーンズ、伊藤錬の3名によって設立されました。彼らはそれぞれ異なる分野の専門知識を持ち、最先端のAI研究やグローバルなビジネス経験を活かしながら、新しいAI開発のアプローチを模索しています。
- デビッド・ハ(CEO)は、Google Brain東京チームの元トップであり、Stability AIの研究責任者も務めたAI研究者です。
- ライオン・ジョーンズ(CTO)は、トランスフォーマー技術を提唱した論文「Attention Is All You Need」の共著者の1人であり、Google AIで自然言語処理(NLP)や機械学習の研究に携わっていました。
- 伊藤錬(COO)は、元外務官僚であり、政策立案や国際交渉の経験を活かし、SAKANA AIのビジネス戦略や企業運営を担当しています。
彼らは、既存の大企業では研究の自由度に限界を感じ、より独自の技術開発を進めるためにSAKANA AIを設立しました。特に、生物模倣(バイオミミクリー)やマルチエージェントAIといった新しい手法を取り入れ、従来の大規模AIモデルとは異なるアプローチを追求しています。
SAKANA AIの技術と特徴
SAKANA AIは、従来の大規模AIモデルとは異なり、自然界の仕組みを応用した新しいAI開発手法を採用しています。特に、生物模倣(バイオミミクリー)やマルチエージェントAI技術を活用し、より柔軟で適応性の高いAIシステムの構築を目指しています。
生物模倣(バイオミミクリー)のアプローチ
SAKANA AIは、魚の群れやアリのコロニーのように、個々の単純な要素が協力し合うことで全体として高度な知能を発揮する仕組みをAIに取り入れています。この手法により、単一の巨大モデルではなく、より分散的で効率的なAIシステムを構築できます。
マルチエージェントAI技術
通常のAIは、一つの大規模モデルがすべての処理を行いますが、SAKANA AIは複数の小さなAI(エージェント)を組み合わせることで、より柔軟な問題解決を実現します。タスクごとに特化したAIが連携することで、従来の単独AIよりも適応力の高いシステムが生まれます。
進化的モデルマージとAIサイエンティスト
SAKANA AIは、異なる特性を持つAIモデルを融合させる「進化的モデルマージ」技術を開発しています。これにより、異なる強みを持つAI同士を組み合わせ、より優れたモデルを生み出すことが可能になります。また、「AIサイエンティスト」という技術にも取り組んでおり、AI自身が新しいアルゴリズムを発見・最適化することを目指しています。
- 生物模倣(バイオミミクリー):自然界の動植物が持つ仕組みを技術に応用する考え方。例えば、サメの肌の構造を取り入れた高速水着などもこの手法の一例。。
SAKANA AIの成長と資金調達
急成長するSAKANA AI
SAKANA AIは2023年7月に設立され、わずか1年半で企業価値約11億ドル(約1800億円)に到達しました。これは、日本企業として最速でユニコーン企業になったと考えられています。短期間での急成長の背景には、革新的なAI開発手法と、世界的に評価の高い研究者たちによるチームの存在があります。
資金調達と主要投資家
SAKANA AIは、シリーズAラウンドでの資金調達を通じて、約300億円の資金を確保しました。
- 2024年1月:約45億円を調達
- 2024年9月:追加で資金調達を行い、総額300億円に到達
この資金調達には、日本国内外の大手企業やベンチャーキャピタルが参加しており、特に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は日本の事業会社の中で最大の投資家となる見込みです。
主な投資家一覧
- 国内企業:NTTグループ、ソニーグループ、KDDI、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、NEC、SBIグループ、第一生命保険、伊藤忠グループ、富士通、野村ホールディングス
- 海外企業・VC:NVIDIA、NEA(New Enterprise Associates)、Khosla Ventures、Lux Capital
なぜこれほど注目を集めているのか?
SAKANA AIが国内外の投資家から高い評価を受ける理由は、以下の点にあります。
- 生物模倣(バイオミミクリー)やマルチエージェントAI技術など、革新的なAI開発手法
- 短期間での高度なAIモデル生成能力
- 計算コストの削減と柔軟なAIソリューションの提供
- ユニコーン企業:企業価値が10億ドル(約1500億円)以上の未上場スタートアップ企業。
- シリーズAラウンド:スタートアップが成長段階に入った際に行う資金調達の一形態。プロダクトの拡大や市場展開を目的とする。
- ベンチャーキャピタル(VC):成長が期待される企業に投資を行うファンド。SAKANA AIには国内外の大手VCが出資している。
SAKANA AIが日本を拠点にする意義
研究の自由度
SAKANA AIの創業者たちは、大手テック企業の制約から離れ、より自由な研究環境を求めて日本を拠点に選びました。大企業では商業的な優先順位や組織の方針に縛られることが多く、AI研究の柔軟性が損なわれることがあります。一方、日本では独自の研究スタイルを確立しやすい環境が整っており、長期的な視点での技術開発が可能です。
日本の技術基盤と産学連携
日本はハードウェア技術や半導体産業との親和性が高く、AIの計算処理を支える強力なインフラが整っています。特に、産学連携が進んでおり、大学や研究機関との共同開発による技術革新の可能性が広がっています。
政府の支援と安定性
日本政府は「AI戦略2022」などを通じてAI開発を推進しており、研究環境の整備や企業支援を行っています。また、法規制が明確であるため、開発リスクが低く、AI技術の長期的な発展に適した環境が整っています。
文化的要因と戦略的な位置づけ
日本は、アニメ、ゲーム、文学などの豊富で多様なクリエイティブ・コンテンツを持ち、これらの分野とAI技術の融合による新たな可能性が期待されています。また、日本市場を基盤にグローバル展開を目指すことで、国際的なテック競争において独自性を確立する戦略を取っています。
国内外のパートナーシップ
SAKANA AIは、日本国内の大手企業(NTT、ソニー、KDDIなど)との協力関係を築きながら、海外ではNVIDIAなどの国際的なテック企業とも連携を強化しています。このようなパートナーシップを活かし、研究開発の加速と市場展開の拡大を図っています。
人材の観点
日本の研究開発コミュニティとの協力を深めることで、AI技術の発展を促進するとともに、国際的な研究コラボレーションの機会も広がります。創業者のデビッド・ハ氏は、日本が今後AI研究の重要な拠点になると考えており、その先駆けとなることを目指しています。
まとめ
SAKANA AIは、生物模倣やマルチエージェントAIを活用し、新しいAI技術を開発する日本発のスタートアップです。設立からわずか1年半でユニコーン企業となり、国内外の大手企業から300億円以上の資金を調達しました。
研究の自由度や日本の技術基盤を活かしながら、グローバル市場での競争力を強化しており、今後の成長が期待されています。
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